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2026.8.15 住まいを考えるブログ

住まいを考える|20|家は、完成したときが一番美しければよいのでしょうか。


家は、完成した瞬間から古くなっていきます





家は、完成した瞬間が一番新しい。
そこから10年、20年と時間が経てば、当然少しずつ古くなっていきます。
では、古くなることは、そのまま美しさを失うことなのでしょうか。
現在の住宅には、とても性能の良い建材がたくさんあります。
ビニルクロスや化粧フロア、外壁のサイディングなど。品質が安定し、施工しやすく、汚れにくい。メンテナンス性にも優れています。
技術の進歩によって、木や石の質感を驚くほど精巧に再現した製品もあります。
私たちの設計でも、こうした新建材は用途に応じて使っています。それぞれに優れたところがあり、適材適所で選ぶべきものだと思います。
ただ一方で、住まいのすべてを「できるだけ変化しないもの」でつくることが、本当に豊かなことなのだろうか、と立ち止まって考えることがあります。





素材は、本来古びていくものです





無垢の木は、時間が経つと色が変わります。
日に焼けながら少しずつ色が深まり、やがて飴色になっていく。
人の手が何度も触れるところには、少しずつ艶が生まれます。
金属も同じです。
鉄の黒皮には、均一ではない独特の色むらがあります。
コールテン鋼は表面に錆をまといながら、その錆そのものが素材の表情になっていく。
銅は長い時間をかけて色を変え、やがて緑青を帯びることもあります。
石やコンクリートにも、雨や光、人が触れてきた時間が少しずつ刻まれていきます。
どれも、新品の状態を永久に保つ素材ではありません。
けれど、変わっていくことが、そのまま美しさを失うことではない。
むしろ時間を重ねることで、均一だったものに揺らぎが生まれ、その素材にしかない表情が育っていくことがあります。





傷も、その家の時間になる





そして、そこに人が暮らせば、当然傷もつきます。
子どもがおもちゃを落とした床の小さなへこみ。
家具を動かしたときについた傷。
何度も人が歩いた場所に残る、わずかな変化。
ついた瞬間には「ああ、傷がついてしまった」と思うかもしれません。
けれど、10年、20年と暮らしたあとで見るその傷は、少し違って見えることがあります。
表面に化粧を施した材料の中には、傷がつくと下地が現れ、元の状態へ戻すには補修や交換が必要になるものがあります。
一方で、無垢の木は、傷がついてもその下に同じ木があります。
傷も色の変化も、その素材の中に残り続けます。
私が住まいの中に無垢材や自然素材を使いたいと思う理由の一つは、ここにあります。
高価だからでも、「本物だから」というだけでもありません。
時間を受け止めることのできる素材だからです。
新築時の状態を保ち続けることだけが、素材の価値ではない。
人が使い、触れ、少しずつ変わりながら、その家にしかない表情になっていく。
そんな素材のあり方は、人が長い時間を過ごす住まいによく似合うと思っています。









美しく年を重ねるのは、素材だけではありません





そしてこれは、表面に使う材料だけの話ではありません。
部屋の広さ。
天井の高さ。
窓の取り方。
光の入り方。
外の景色との関係。
こうしたものは簡単に取り替えることのできない、住まいの本質的な部分です。
仕上げや設備、デザインには、その時代ごとの流行があります。
けれど、心地よい空間のプロポーションや、朝の光がきれいに入る場所、空や庭へ気持ちよく視線が抜ける窓は、流行が変わったからといって価値を失うものではありません。
長く愛されてきた建築の魅力も、表面的な新しさだけにあるわけではないと思います。
時代が変わっても、そこに立つと気持ちがいい。
光が美しい。
窓辺に座っていたくなる。
そうした建築そのものの質は、時間が経っても古びにくいものです。
完成した瞬間の見栄えだけではなく、10年後、30年後にも心地よい空間であること。
それも、長く住まう家を設計する上で大切にしたいことです。





経年変化を楽しむために、経年劣化を防ぐ





ただし、建物はただ古くなればよいわけではありません。
構造体が傷む。
雨水が入り込む。
壁の中で結露する。
必要な断熱性能を保てない。
これは味わいではなく、建物としての劣化です。
構造、断熱、気密、防水。
完成すると壁の中に隠れ、見えなくなってしまう部分だからこそ、現在の木造建築の技術や知見を使い、長く健全な状態を保てるように設計する必要があります。
建物としての性能は、できるだけ長く健全に。
人が触れ、目にする部分は、美しく変化していく。

この二つは矛盾するものではありません。
むしろ、建物そのものが長く使えるからこそ、そこで起こるゆっくりとした変化を楽しむことができます。
目指したいのは、経年劣化ではなく、豊かな経年変化です。









人が暮らすことで、その家だけの時間が生まれます





建物が10年、20年、30年と時間を重ねる間に、そこに暮らす人も年を重ねます。
家に住み、子どもが生まれ、育ち、食事をし、眠り、趣味を楽しむ。
やがて子どもが巣立ったり、家族の形が変わったりすることもあります。
住宅は、その長い時間を受け止める場所です。
新品だった家が少しずつ変わっていくことは、そこで人が暮らしてきたことの裏返しでもあります。
50年後、その家はどうなっているでしょう。
庭に植えた小さな木は、二階の窓に届くほど育っているかもしれません。
床にはいくつもの傷が残り、木は深い飴色になっている。
けれど、窓から入る光や、そこから見える景色、家族が集まる場所の心地よさは、変わらずそこにある。
建物も健全に使われ続けている。
そして、そこに暮らした人が家を眺めれば、一つひとつの場所に、それぞれの記憶がある。
そんな家なら、長く住むことそのものが、住まいの価値になっていくように思います。





完成した日の先にある、美しさ





家が完成した日は、もちろん美しいものです。
すべてが新しく、まだ何も刻まれていない空間には、そのときにしかない美しさがあります。
でも、住宅にとって、それが美しさの頂点でなくてもよいのではないでしょうか。
10年後には、10年を過ごした家の美しさがある。
30年後には、30年を過ごした家の美しさがある。
素材が変わり、庭が育ち、人が暮らし、その場所に時間が積み重なっていく。
完成した日の美しさに、暮らした時間の美しさが加わっていく。
住まいの質とは、そんな長い時間まで受け止められることなのかもしれません。
いつかその家を眺めたときに、
「古くなったな」だけではなく、
「いい家になったな」
と思える。
そんなふうに、人と一緒に年を重ねていく住まいを、つくりたいと思っています。










住まいを考える





家づくりには、正解が一つではないからこそ、多くの考え方に触れることが大切だと考えています。
「住まいを考える」は、土地や間取り、光や素材、富谷洋介建築設計の視点を通して、住まいづくりを少し深く、少し楽しく考えるためのシリーズです。一つの記事が答えではなく、ご自身やご家族らしい住まいを見つけるきっかけになれば嬉しく思います。
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English Summary





Can a Home Become More Beautiful with Time?





A home does not need to be at its most beautiful on the day it is completed. Natural materials change with time: wood deepens in color, metals develop patina, and the traces of everyday life gradually become part of the home itself. At the same time, fundamental spatial qualities—proportion, light, views and comfort—can remain valuable for decades. By combining durable building performance with materials and spaces that age gracefully, a home can grow richer together with the people who live there.
Last Updated:2026.08.10


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