住まいを考える|48|住宅街でも、外にひらいて暮らす。
札幌で住宅を設計していると、いつも森や山が見える土地に出会うわけではありません。
隣には家が建ち、前には道路があり、電柱や駐車場も見える。いわゆる、ごく普通の住宅街です。
それでも、「住宅地だから、特に見るべきものはない」ということにはなりません。
設計をするとき、私たちはその敷地が持っている力を、できるだけ引き出すにはどうしたらよいかを考えます。
森に隣接していなくても、敷地が広くなくても、その場所の中には必ず何か手がかりがあります。
実際に敷地へ行って立ってみると、図面だけでは分からなかったことが見えてきます。
道路の先だけ少し遠くまで抜けていたり、隣家の間から空が見えたり、二階くらいの高さまで上がると急に視界が広がったり。
住宅街だから外へひらけない、とは限りません。
大切なのは、与条件に最大の力を発揮させるにはどうするか、と考えつくすことです。

敷地の外まで見て、その土地を考える
土地を見るとき、敷地の形や方位、高低差はもちろん確認します。
ただ、家の中で実際に見えるのは、敷地の中だけではありません。
道路の向こうに何があるのか。隣の家はどの位置に建っているのか。その隙間から何が見えるのか。近くに公園や街路樹があるのか。
そうした周囲の環境も、設計の材料になります。
同じ大きさ、同じ形の土地でも、家をどこへ向けるかで、そこで感じる広がりはかなり変わります。
だから、土地を見るときは境界線の内側だけを見ないようにしています。
少し離れて眺めたり、道路の反対側まで歩いてみたりしながら、その場所と周囲との関係を見ていきます。
住宅街にも、その土地だけの手がかりがあります
周囲を住宅に囲まれた土地でも、すべての方向が同じように閉じているわけではありません。
たとえばT字路に面した土地なら、道路が伸びる方向だけ視線が遠くまで抜けます。
隣家と隣家の間に、思いがけず空が見えることもあります。
一階からは周囲の建物しか見えなくても、二階へ上がると街の屋根越しに山が見えることもあります。
近くに街路樹があれば、その葉が見える高さに窓をつくることもあります。
近隣の窓から視線が届きにくい位置があれば、そこにテラスをつくることで、住宅街の中でも落ち着いて外に出られる場所になります。
そうした小さな手がかりを一つずつ拾いながら、その家の向きや居場所、窓の位置を考えていきます。
特別な景色でなくても、毎日そこに目を向けたくなる場所はつくれます。

見たいものと、見なくてよいものを分ける
住宅街には、暮らしの中へ積極的に取り込みたいものばかりがあるわけではありません。
道路を走る車や隣家の駐車場、設備機器など、できれば日常の視界から外したいものもあります。
だから、周囲にあるものをすべて見せようとは考えません。
必要のない方向は建築で整えて、その代わり、気持ちよく視線を伸ばせる方向をきちんと残します。
近隣からの視線が入りにくい位置にリビングの窓を設ければ、カーテンを閉め続けなくても、外とのつながりを感じながら暮らすことができます。
何を見せるかと同時に、何を見なくてよいようにするかを考える。
それも住宅街での設計の大切な部分です。
外へひらく方法は、一つではありません
周囲へ大きくひらくことが難しい場所では、あえて閉じた中庭をつくることもあります。
外へ向かって視線を伸ばすのではなく、家の内側に光と視線を集める。
そうすると、中庭が「光の庭」のような役割を持ちます。
また、光を入れるための窓と、景色を見るための窓を同じものとして考える必要もありません。
高い位置から光を入れながら、人の目線は別の方向へ抜くこともできます。
間取りだけではなく、窓の位置や高さ、天井の高さ、空間同士のつながり方まで含めて考えることで、住宅街の中でも落ち着きと明るさを両立できることがあります。
少ない材料の中で、より良い状態を探していく
敷地が広いわけではない。
森に隣接しているわけでもない。
分かりやすい眺望があるわけでもない。
そういう土地は珍しくありません。
でも、条件が少ないから設計できないのではありません。
道路と建物の隙間から見える空や、近隣から視線が届かない場所、街路樹の葉が見える高さ。
そうした小さな要素を手がかりにして、少しでも快適な状態を探していきます。
一つの大きなアイデアだけで家が決まるわけではありません。
細かな判断を積み重ねながら、その敷地の中でできるだけ良い答えを探していく。
それが設計の役目の一つだと思っています。

普通の土地にも、その場所らしさはあります
森に囲まれた土地や、遠くまで景色が広がる土地は、魅力が分かりやすいです。
でも実際には、そうではない土地の方が多い。
周囲に住宅があり、道路があり、日常の街並みの中に建つ。
そういう土地でも、よく見ると、その場所だけの特徴があります。
特別な土地だから特別な家になる、ということではないと思っています。
その場所にあるものをどう見つけて、暮らしにつなげるか。
住宅街にも、住宅街なりの設計があります。
周囲との関係を丁寧に読み取っていけば、都市部の限られた敷地であっても、落ち着きがあり、光や空を感じられる住環境をつくることができると考えています。
この考え方から生まれた住まい
White Prism
周囲を住宅に囲まれた都市型の敷地で、外部からの視線を整えながら、1・2階を貫く光の筒によって内部へ明るさと広がりをつくった二世帯住宅です。
T字路の家
住宅街のT字路に面する敷地で、道路の先に生まれる視線の抜けを読み、その方向へリビングをひらいています。
集光の家
周囲を住宅に囲まれた敷地で、外からの視線を整えながら、上部から取り込んだ光を家の内部へ届けています。
宮の沢の家|Cross House
住宅街の中にありながら、敷地の向こうにある森との関係を読み、それぞれの暮らしの中へ景色を取り込んでいます。
関連する「住まいを考える」
→ 01|敷地を読むということ
→ 05|窓は景色を取り込む装置にもなる。
→ 10|プライバシーと開放感、その両方をかなえる設計
住まいを考える
「住まいを考える」は、住まいづくりにまつわる考え方や設計の工夫を、一つひとつテーマごとにまとめたシリーズです。
English
Opening a Home to Its Surroundings in a Residential Neighborhood
Most homes are built in ordinary residential areas rather than on dramatic sites.
Even there, the site always contains small clues: a view along a street, a gap between neighboring houses, a patch of sky, the height of nearby trees, or a place where neighboring windows do not overlook the property.
At Yosuke Tomiya Architectural Design, we look beyond the boundary of the site itself and consider how these small conditions can improve everyday life.
Sometimes that means opening a living space toward a distant view. Sometimes it means placing a terrace where privacy can be maintained. In other cases, we create an enclosed courtyard and bring light and views inward.
Windows for daylight and windows for views do not always need to be the same.
By carefully adjusting the plan, window positions, ceiling heights and spatial relationships, even a compact urban site can become a calm and comfortable place to live.
A site does not need a spectacular landscape to have character. The role of design is to discover what is already there and make the most of it.
Last Updated|2026.09.16