一級建築士事務所 富谷洋介建築設計 一級建築士事務所 富谷洋介建築設計

最新情報News

2026.8.17 住まいを考えるブログ

住まいを考える|40|感覚に残る、住まいの質。


「いい空間だな」と感じるのは、なぜでしょうか





ある建築に入ったとき、理由をうまく説明できないけれど、「なんだか心地いい」と感じることがあります。
空間の広さやプロポーション。
窓から見える景色。
光の入り方。
もちろん、そうした目で感じるものも大切です。
でも、実際の建築の中に立ってみると、写真では伝わらないものがたくさんあります。
素材の温度や手触り。
音や匂い。
その場所の空気。
私たちは建築を、目だけで感じているわけではありません。
身体のさまざまな感覚を通して、その空間を感じ取っています。
その積み重ねもまた、住まいの「質」をつくるものだと思います。









身体で感じると、空間が立ち上がる





大きな石に腰掛けたときの、ひんやりとした感触。
コンクリートの壁に手を触れたときに感じる、塊としての重さと温度。
木陰に入った瞬間の、少しひんやりとした空気。
窓を開けたとき、風と一緒に入ってくる森の匂い。
炎の前に手をかざしたとき、少し離れていても伝わってくる暖かさ。
細い廊下を歩いたとき、自分の足音が壁に返ってくる感じ。
厚い木の扉を押したとき、手に返ってくる重さ。
こうして言葉にするだけでも、その場所がなんとなく思い浮かぶのではないでしょうか。
そこには、写真も図面もありません。
それでも、その場所の温度や匂い、音、手触りまで想像することができる。
私たちが考えている空間の質とは、こういうものです。





人間も、身体を持った動物です





私は住まいを考えるとき、人間も動物であるという、ごく当たり前のことをよく考えます。
私たちには目だけではなく、手があり、足があり、耳があり、鼻があります。
暑さや寒さを感じ、湿度や空気の違いも感じます。
例えば、無垢の木。
写真で見れば、「木目のある床」に見えるかもしれません。
けれど実際の木に近づくと、表面には細かな凹凸があります。
もともと一つひとつの細胞からできていた木には均一ではない表情があり、光が当たれば、小さな凹凸に細かな陰影が生まれます。
そこを素足で歩けば、足の裏には木の硬さや温度が伝わる。
手摺を握れば、手のひらでその感触を感じる。
近づけば、ほのかに木の匂いもあります。
一つの素材から、私たちの身体はたくさんの情報を受け取っています。
実際の素材が持っている情報は、目で見えているものより、ずっと奥深い。
その奥行きを身体で感じられることも、建築の豊かさなのだと思います。





素材の質と、空間の質





だからといって、良い素材を使えば、それだけで良い空間になるわけではありません。
木も、石も、鉄も、左官も、それぞれに魅力があります。
すべてを主張させれば、かえって落ち着かない空間になることもあります。
静かな白い壁があるから、木の表情が見える。
平滑な面があるから、左官の凹凸が感じられる。
何を使うのか。
どこに使うのか。
どんな光が当たるのか。
そして、何をあえて抑えるのか。
素材そのものの良さだけではなく、その素材がどう感じられるのかまで考える。
そこに、設計の役割があると思っています。





日常の中で、建築と身体は触れ続けています





子どもが裸足で床を駆け回る。
階段を上りながら、手摺に手を添える。
扉を開ける。
椅子に座り、テーブルに手を置く。
住まいでは、人の身体と建築が毎日のように触れています。
一つひとつは、意識するほどのことではないかもしれません。
でも、それを毎日、何年も繰り返します。
そしていつか年を重ねたときには、毎日なんとなく触れていた手摺を、しっかりと握って歩くようになるかもしれません。
だから私は、身体が触れる場所を大切に考えたいと思っています。
すべてに高価な材料を使う必要はありません。
水や汚れに強いこと、掃除しやすいこと、長く安定して使えることが大切な場所では、現代の建材が優れています。
一方で、毎日素足で歩く床や、何度も手を触れる家具や手摺、長い時間を過ごす場所。
限られた予算の中でも、どこに質を置けば、日々の小さな心地よさにつながるのかを考えることができます。
高価であることと、上質であることは、必ずしも同じではありません。
人がそこでどう過ごし、何に触れ、何を感じるのか。
そこまで丁寧に考えられていることも、住まいの質なのだと思います。









感覚は、場所の記憶になる





昔訪れた場所を、ふとした瞬間に思い出すことがあります。
木の匂いから、昔過ごした家を思い出す。
雨の音から、どこかの軒下を思い出す。
冷たい石に触れて、夏の日の記憶が戻ってくる。
私たちは、思っている以上に身体で場所を覚えているのかもしれません。
住まいの中で過ごす時間のほとんどは、特別な時間ではありません。
朝起きて床を歩く。
食卓に座る。
窓辺で少し休む。
夜になれば、また同じ床を歩いて眠りにつく。
その一つひとつの中で、私たちは意識しないまま建築に触れ続けています。
足の裏に感じる床。
手に触れる木。
壁に落ちる光。
静かな部屋の音。
その家の匂い。
一回一回は、本当に小さなことです。
でも、それが毎日積み重なり、10年、20年と続いていく。
やがて一つひとつを意識することもなくなって、「なんとなく、この家は心地いい」という感覚になっていく。
そして、ずっと先にその場所を思い出したとき、形や色だけではなく、そこで感じていたものまで一緒によみがえる。
目だけではなく、身体が覚えているものがある。
そんな感覚の積み重ねまで丁寧に考えること。
それも、住まいの質を設計するということなのだと思います。










この考え方から生まれた住まい





森窓の家
森へ向かって開く窓、床材の木、コンクリート、薪ストーブ。視覚だけではなく、木の感触や炎の暖かさ、森との距離まで含めて感じられる住まいです。
森へひらく家
傾斜地と森の環境を生かし、段差を介しながら内外がつながる住まい。光、コンクリートや無垢フローリングの木の質感とともに、身体を動かしながら空間を感じます。
集光の家
差し込む光によって、壁や木の表情が刻々と変わる住まい。素材そのものだけではなく、光との関係によって生まれる空間の質を大切にしています。










すべての「住まいを考える」はこちら





土地、間取り、光、素材、北海道での暮らし、建築家との家づくりなど、さまざまな視点から住まいについて考えています。
→「住まいを考える」一覧へ










English Summary





The Quality of a Home That Remains in Our Senses





We experience architecture not only with our eyes, but with our whole body. The coolness of stone, the warmth of wood beneath bare feet, the weight of a solid door, the scent carried through an open window, and the way footsteps resonate through a space all become part of how we experience and remember a place. True quality is not simply about expensive materials, but about carefully considering these small physical sensations in everyday life. Over time, they accumulate into a sense of comfort—and into memories that remain with us.
Last Updated|2026.08.12


記事一覧へ