住まいを考える|42|「坪単価」と、建築費が高くなった今、何にお金をかけるのか。
家づくりを考え始めると、「坪単価」という言葉を目にすることが多いと思います。
「坪単価はいくらですか?」
初めてご相談いただく方から聞かれることもあります。
坪単価が分かれば、それに建物の坪数を掛けて、おおよその建築費が分かる。一見、とても分かりやすい指標です。
けれど、注文住宅を設計する立場からすると、坪単価は、家をつくる前に決まっている数字ではありません。
どのくらいの広さにするのか。どんな性能を求めるのか。どこに窓を開け、どんな素材を使い、どんな設備を選ぶのか。
一つひとつを考え、設計し、見積もった結果として、最後に出てくる数字が坪単価です。
そして建築費が大きく上昇した今、坪単価そのもの以上に大切なのは、
限られた予算を、何に使うのか。
ということだと考えています。
坪単価は、設計した「結果」として出てくる
注文住宅では、同じ30坪の家でも建築費は大きく変わります。
窓の大きさや数、断熱性能、外壁や屋根、床や壁の素材、キッチンや浴室などの設備、造作家具、天井の高さ、そして建物の形。
同じ面積でも、四角くシンプルにつくる家と、敷地や風景に応じて複雑な形を持つ家では、必要な材料も施工の手間も違います。
敷地の高低差や地盤、道路との関係によっても費用は変わります。
つまり坪単価とは、
「坪単価○万円だから、この家が建つ」という数字ではなく、「この家をつくった結果、坪あたり○万円になった」という数字に近いものです。
一つの目安にはなります。
ただ、それだけで自分たちの住まいに必要な予算を判断することは、なかなか難しいのです。
家づくりに必要なのは、建物の費用だけではない
土地を購入するのであれば、当然、土地代が必要です。
そのほかにも、外構、地盤、給排水、各種申請、登記、家具や家電など、計画によってさまざまな費用がかかります。
だから建物の坪単価だけを見ていても、家づくり全体に必要な金額は分かりません。
そこで大切になるのが、土地と建物への予算配分です。
利便性の高い土地もほしい。
建物にも十分な予算をかけたい。
広さもほしい。
性能も高くしたい。
素材にもこだわりたい。
もちろん、すべてを実現できれば理想的です。
けれど、すべてを同時に求めれば、総予算は大きくなっていきます。
だから一度、「自分たちは何に価値を感じているのか」を考えてみます。
土地と建物を、一緒に考える
例えば、駅から近いという条件を少しだけ緩めることで、土地の選択肢が大きく広がることがあります。
北海道では車を持つご家庭も多く、働き方も以前とは変わってきました。
オンラインで仕事ができる。車で通勤できる。少し離れた場所でも、JRや地下鉄に乗ってしまえば、実際の通勤時間はそれほど大きく変わらない。
そうしたご家庭であれば、「駅から徒歩何分」という条件を少し広げることも、一つの考え方です。
土地に使う予算を抑えることができれば、その分を建物へ振り分けられる可能性があります。
そして、駅から離れることは必ずしもデメリットばかりではありません。
自然が近くなる。
敷地に余裕が生まれる。
窓の先に空や緑が見える。
子どもが外で過ごせる環境が広がる。
そうしたことに、より大きな価値を感じるご家族もいます。
もちろん、毎日の通勤時間を何より大切にするご家庭なら、職場に近い土地へしっかり予算をかけることも一つの答えです。
土地と建物を別々に考えるのではなく、家づくり全体として、どこへ予算を配分するのかを考える。
そして、ここに土地を購入する前から設計者が家づくりに参加する意味があります。
「この土地にこれくらいの費用をかけると、建物にはどのくらいの予算を残せるのか」
「土地の条件を少し広げることで、その分、建物にどんな価値を加えられるのか」
そんなことを、実際につくる住まいを想像しながら考えることができます。
また、土地の価値は、価格や面積、駅からの距離だけで決まるものでもありません。
一見扱いにくそうな高低差が、豊かな空間につながるかもしれません。
北側にある森や、遠くに見える景色が、その住まいにとってかけがえのないものになるかもしれません。
一般的には条件が良くないと思われている土地にも、設計によって生かすことのできる魅力が隠れていることがあります。
土地の価格を見るだけでなく、その土地が持っている力を読む。
そのうえで、土地と建物にどのように予算を配分するのかを一緒に考える。
それも、土地探しの段階から設計事務所や建築家に相談する意味の一つだと考えています。

大きな家が、豊かな家とは限らない
建築費を考えるうえで、面積はやはり大きな要素です。
必要な床面積を整理することは、建築費を調整する有効な方法の一つです。
ただ、単純に部屋を小さくしていけばよい、ということではありません。
私たちは、実際の面積と、感じる広さは必ずしも同じではないと考えています。
窓の先へ視線が抜ける。
上下階の空間がつながる。
低い天井の先に、高い空間が現れる。
一つの場所が、いくつかの役割を兼ねる。
廊下としてしか使われない場所を減らし、そこを人が過ごせる場所にする。
設計には、限られた面積の中でも、広がりや豊かさを生み出す方法があります。
だから、
「予算が厳しいから、ただ小さくする」
のではなく、
自分たちにとって必要十分な面積はどのくらいなのか。その中で、どう豊かに暮らせるのか。
そこを考えます。
高価な素材を使うことだけが、質を高める方法ではない
素材についても同じです。
無垢材や石、左官など、魅力のある素材はたくさんあります。
けれど、すべての場所に高価な素材を使えば、良い家になるわけではありません。
そのご家族が、何に心地よさを感じるのか。
そこを考えることの方が大切です。
きれいに仕上げられた高価な素材より、アウトドアで使われるような少し荒々しい材料の方が、その人の暮らしにしっくりくることもあります。
大切なのは素材の価格ではなく、
その費用に対して、自分たちはどれだけの価値を感じるのか。
ということです。
素材を変えることは、必ずしもグレードを落とすことではありません。
選び直したことで、むしろその家族らしい空間になることもあります。
後から変えにくいものには、しっかりお金をかける
一方で、予算を調整するときにも、できるだけ慎重に考えたい部分があります。
構造。
断熱。
窓や玄関ドアなど、建物の外皮に関わる部分。
こうしたものは、完成してから簡単に取り替えたり、性能を高めたりすることが難しい部分です。
特に北海道では、断熱性能や窓の性能は冬の快適性だけでなく、その後長く続くエネルギー消費にも関係します。
内装や設備、家具などは、暮らしの中で交換する機会があります。
けれど、壁の中に隠れる断熱材や建物を支える骨組みは、何十年にもわたってその家を支え続けます。
だから私たちは、後から変えにくく、長い時間にわたって暮らしを支える部分には、必要な性能をきちんと確保しておきたいと考えています。
建てるときの金額が安ければ、それが最も経済的な住まいになるとは限りません。
建築時にかかる費用と、住み始めてから長くかかる費用。
両方を見る必要があります。
「当たり前」を一度外してみる
一方で、住宅には、当たり前のようについているけれど、本当に必要なのかを考え直せるものもあります。
例えば、内部の扉です。
すべての場所に、いつでも扉が必要でしょうか。
暮らし方によっては、普段ほとんど閉めない場所もあります。
もちろん必要な場所には設けますが、場所によってはロールスクリーンやシェードなど、別の方法で十分なこともあります。
例えば、天井高さも同じです。
すべて高ければ、空間が豊かになるわけではありません。
少し低い天井には、包まれるような落ち着きがあります。
その先に高い天井のリビングが現れれば、高低差によって、むしろ開放感が強く感じられることもあります。
低いところと、高いところ。
閉じるところと、開くところ。
すべてを均一に充実させるのではなく、大切なところにきちんと力をかける。
それが空間のメリハリをつくり、例えば一部天井を下げる造りになったとしたら同時に建築費のバランスにもつながります。

欲しい価値を残して、つくり方を変える
家具も一つの例です。
建築に合わせて一から造作家具をつくれば、寸法も素材もぴったり合わせることができます。
一方で、今は国内外のさまざまな家具や収納を、比較的手頃な価格で手に入れることもできます。
そうした既製品を設計段階から選び、工事中に建築へうまく組み込む。
納まりを工夫することで、ただ家具を置いたようには見えず、造作家具に近い一体感をつくることもできます。
これは単に、安いものへ置き換えるということではありません。
欲しい価値は残しながら、つくり方を変える。
予算を考えるときには、そんな方法もあります。
見積が出てから分かる「価値」もある
設計が進み、施工会社から見積書が出てくると、それまで考えてきた一つひとつの選択が、具体的な金額として見えてきます。
注文住宅は自由に仕様を考えられる分、設計を進める中でイメージが膨らむこともあります。
そして実際の金額を見たときに、
「これは思っていたより高いな」
と感じることがあります。
でも、その感覚も大切です。
例えば、ある仕上げに想像以上の費用がかかることが分かったとします。
それでも「ここは残したい」と思うのか。
「この金額なら、別の素材でもいい」と思うのか。
金額が見えたことで、自分たちがそこに感じている価値が、初めてはっきりすることがあります。
見積書は単なる金額の一覧ではありません。
自分たちが何を大切にしたいのかを、もう一度確認する材料にもなるのです。
見積調整は、「値切ること」ではない
施工会社から見積書が出てきたら、設計者は数量や単価、工事内容を確認します。
数量や単価が妥当な範囲にあるか。
工事内容に重複はないか。
もっと合理的につくれる方法はないか。
一つずつ見ていきます。
ただ、見積調整とは、施工会社から提示された金額を単純に値切ることではないと考えています。
施工会社も、図面に描かれたものを実際につくるために必要な材料や手間を積み上げて、金額を出しています。
だからこそ、
「この納まりなら、もう少し施工しやすくできないか」
「この工事とこの工事を整理すれば、手間を減らせないか」
「ここは仕様を変えても、求めている価値は残せないか」
と考えていきます。
施主、設計者、施工会社。
それぞれが知恵を持ち寄り、限られた予算の中で、できるだけ価値の高い着地点を探していく。
それが、本来の見積調整だと思っています。
「いつ、どう建てるか」も、建築費の一部
建築費は、図面に描かれているものだけで決まるわけではありません。
職人不足が続く現在では、施工会社の状況や着工時期によって条件が変わることもあります。
そして北海道では、季節も無関係ではありません。
冬にコンクリートや左官など、水を使う工事を行う場合には、気温に応じた保温養生などが必要になり、それが費用に影響することがあります。
可能であれば施工しやすい季節や、施工会社が工程を組みやすい時期を考えることも、建築費を考える一つの方法です。
何を建てるかだけではなく、いつ、どのようにつくるのか。
そこまで含めて考えることで、より合理的な方法が見つかる場合があります。
経験は、「別の選択肢」をつくる
住宅設計を長く続けていると、多くの見積書や現場を見ることになります。
その経験があることで、見積書を見たときに、
「ここは単純に仕様を落とすのではなく、つくり方を変えられないか」
「別の材料なら、求めている質を残せるのではないか」
「この部分を整理すれば、必要な価値を残しながら合理化できるのではないか」
といった、別の選択肢が見えてくることがあります。
もちろん、過去の答えがそのまま使えるわけではありません。
土地も、建物も、施工会社も、住まい手が大切にするものも、一軒ごとに違います。
だからこそ、過去の答えを繰り返すのではなく、これまでの経験を、その家に合う新しい選択肢を考えるために使う。
それも、設計者の役割の一つだと考えています。

何を削るかではなく、何を残したいのか
建築費が高くなった今、希望するものをすべて盛り込むことが難しい場面は、以前より増えています。
そんなとき、
「何を削りましょうか」
だけから始めたくはありません。
家を少し小さくする。
土地の選び方を変える。
素材を選び直す。
既製品をうまく使う。
空間にメリハリをつける。
つくり方を考え直す。
建てる時期を考える。
方法はいくつもあります。
その一方で、構造や断熱性能のように、長い時間にわたって暮らしを支えるものは、簡単には変えたくありません。
すべてを同じように削っていくのではなく、
自分たちは、何を残したいのか。
を考える。
予算調整とは、家から価値を削っていく作業ではなく、限られた予算を、その家族にとって大切な価値へ配り直していく作業なのだと思います。
坪単価は、その結果として最後に出てくる数字です。
大切なのは、その数字だけではありません。
その予算を使って、
どんな場所で暮らしたいのか。
何を心地よいと感じたいのか。
家族と、どんな時間を過ごしたいのか。
そして何十年という時間の中で、何を残したいのか。
建築費が高くなった今だからこそ、「いくらで建てるか」と同じくらい、「何にお金をかけるのか」を考えることが大切だと思います。
住まいを考える
「住まいを考える」は、住まいづくりにまつわる考え方や設計の工夫を、一つひとつテーマごとにまとめたシリーズです。
English Summary
Cost per Tsubo and Where to Invest as Construction Costs Rise
In custom home design, cost per tsubo is not a fixed starting point. It is a figure that emerges as a result of decisions about size, performance, materials, equipment, site conditions and many other elements.
As construction costs rise, the important question is not simply how to make a house cheaper, but where to place value. The balance between land and building costs, floor area, materials, equipment and built-in furniture can all be reconsidered, while structural integrity, insulation and other elements that are difficult to change later require a longer-term perspective.
Budget adjustment is not simply about removing value from a home. It is about reallocating a limited budget toward what matters most to the people who will live there.
2026.08.25