住まいを考える|43|傾斜地や変形地でも、家は建てられる。難しい土地だからこそ、できる住まいがある。
土地を探していると、ときどき少し気になる土地に出会います。
傾斜している。
道路との高低差が大きい。
形が整っていない。
間口が狭い。
古い擁壁がある。
旗竿地になっている。
道路が北向きになっている。
一般的には、少し扱いにくいとされる土地です。
そうした条件があるため、周辺の整った土地と比べて価格が抑えられていたり、長く売れずに残っていたりすることもあります。
「条件は少し難しそうだけれど、この土地なら予算に合う」
「景色はとてもいい。でも、この傾斜地に本当に家を建てられるのだろうか」
そんな土地に出会うことがあります。
私たちは、土地を決める前からご相談をいただくことが多く、施主様と一緒に候補の土地を見に行く機会も少なくありません。
そこで考えるのは、単に、
「この土地に家が建つか、建たないか」
だけではありません。
この土地が持っている条件を、住まいの魅力に変えることができるか。
そして、それを無理のない建築費で実現できるか。
そこまで含めて土地を見ています。
「建てやすい土地」と「その家族にとって良い土地」は、同じではない
一般的には、南向きの道路に面した、平らで四角い土地は「良い土地」とされることが多いと思います。
もちろん、そうした土地には多くのメリットがあります。
建物を配置しやすく、工事もしやすい。日当たりもイメージしやすい。
そのため人気があり、価格も相場から大きく下がりにくい土地です。
ただ、建物を建てやすい土地が、すべての家族にとって最も良い土地とは限りません。
傾斜がある。
高低差がある。
土地が三角形や台形、多角形になっている。
北側に魅力的な森がある。
高台にあり、遠くまで景色が見える。
一般的な住宅をそのまま置こうとすれば扱いにくい条件でも、その土地に合わせて一から建物を考えるのであれば、見え方が変わることがあります。
私たち設計者にとって、少し変わった土地は、むしろ興味深い土地でもあります。
条件が一つ増えることで、設計にも一つ新しい問いが生まれるからです。
この高低差を、何に使えるだろう。
この斜めの境界線を、建物の形に取り込めないだろうか。
北側にあるこの景色を、暮らしの中心にできないだろうか。
普通ではない条件から考え始めることで、普通の土地では生まれなかった答えにたどり着くことがあります。
安い土地だから「得」とは限らない
ここは、とても大切なところです。
条件の難しい土地が安いからといって、家づくり全体まで安くなるとは限りません。
例えば傾斜地なら、基礎のつくり方が複雑になることがあります。
造成が必要になるかもしれません。
擁壁があれば、その状態も確認する必要があります。
地盤やハザードについても調べなければなりません。
土地そのものを安く購入できても、そこに建物を建てるために大きな費用が必要になれば、結果として割安ではなくなることがあります。
旗竿地なども同じです。
土地価格としては魅力的でも、北海道では道路から建物までの長い部分を冬にどう除雪するのかを考えなければなりません。
毎回人の手で除雪するのか。
ロードヒーティングを設けるのか。
その場合、建築時の費用だけではなく、使い続けるための費用も必要になります。
だから私たちは、
「安いから、この土地にしましょう」
とは考えません。
土地の価格だけではなく、その上に建つ建物と、そこで続いていく暮らしまで含めて考えます。
難しい条件には、「生かせる範囲」がある
傾斜地は、私たちがこれまで何度も設計してきた土地の一つです。
ただし、傾斜地ならどんな土地でも魅力的な建築にできる、ということではありません。
比較的緩やかな傾斜であれば、床の高さを少しずつ変えることで、地形に建物を沿わせられる場合があります。
大掛かりに土地を平らにするのではなく、高低差そのものを内部空間へ取り込む。
そうすることで、基礎にかかる費用を抑えながら、床や天井の高さに変化を持つ空間が生まれることがあります。
しかし、傾斜がさらに急になれば話は変わります。
基礎や地盤補強の方法が難しくなり、特殊な工事が必要になる場合もあります。
土地価格が安くなった以上に、建築費が増えてしまうことも考えられます。
だから現地を見るときには、
この程度の高低差なら、無理なく設計へ取り込めそうだ。
あるいは、
この条件なら、別の土地を探した方がいい。
というところまで考えます。
難しい土地を生かすということは、無理をして建てることではありません。
土地の価格と、必要になる建築費と、そこから得られる暮らしや空間の価値。そのバランスを見ることが大切です。
擁壁は、今だけでなく将来を見る
高低差のある土地では、擁壁がつくられていることもあります。
こうした土地では、擁壁があるということだけではなく、その状態を見ます。
どのくらいの高さなのか。
いつ頃つくられたものなのか。
変形や膨らみなどが見られないか。
水抜きが適切に設けられているか。
そして近い将来、補修やつくり直しが必要になる可能性はないか。
擁壁も構造物ですから、永久にそのまま使えるわけではありません。
購入するときには問題がなくても、長い時間の中では所有者が維持していかなければならない場合があります。
土地価格が抑えられている理由の一つに、そうした将来の負担が含まれていることもあります。
だからこそ、購入価格だけではなく、その土地を長く所有することまで考えて判断する必要があります。
傾斜を、森と暮らすための床に変える
「森へひらく家」の土地も、一般的には少し難しい条件を持っていました。
敷地は傾斜していて、その先には大きな森がありました。
しかも、その森は北側です。
一般的な考え方だけなら、
「傾斜地である」
「大きく開きたい方向が北である」
という二つの不利な条件として捉えることもできます。
しかし、施主様がこの土地で望まれていたのは、森とともに暮らすことでした。
それなら、まず森へ向かって大きく開く。
採光は、別の方向から考えればいい。
そこで階段室を吹き抜けとし、高い位置の窓から南側の光を取り込み、家の中へ導きました。森へ向けた窓と、光を取り込む窓。それぞれに違う役割を持たせています。
そして傾斜についても、すべてを平らにしてから建物を置くのではなく、一階の床そのものを地形に合わせて変化させました。
床が地形に沿うことで、外部に長い階段をつくることを避けながら、内部には緩やかな高さの変化が生まれます。
傾斜をなくしたのではなく、傾斜を住まいの中へ取り込んだ。
北側の森を諦めたのではなく、森へ開きながら、必要な光は別の方向から取り込んだ。
難しい条件を一つずつ消して普通の土地に近づけるのではなく、その条件を読み替えることで、この土地だからできる住まいになりました。

高低差を、落ち着きと開放感に変える
「段床の家」は、高台の緩やかな傾斜がそのまま敷地に現れている土地でした。
ここでは一階の床高さを変化させ、玄関から少しずつ下がりながらリビングへ入っていく構成としました。
リビングは少し床が下がった、ダウンフロアの場所です。
床が下がることで、身体的には少し包まれたような落ち着きが生まれます。
一方、床を下げた分だけ天井は高くなり、上には開放感が生まれる。
敷地の傾斜に建物を沿わせることで、基礎コンクリートの合理化にもつながりました。
一つの高低差から、落ち着きと開放感という二つの性格をつくることができました。
そして、この土地にはもう一つ、高台だからこその魅力がありました。
眺望です。
土地を購入する段階では、まだ既存住宅に売主様がお住まいでした。
ご厚意で内部を見せていただき、施主様と一緒に建物の各所から実際の風景を確認しました。
どの方向に空が広がっているのか。
どこへ視線が抜けるのか。
新しい住まいでは、どの位置に窓を設けると、この風景を取り込めるのか。
土地を購入する段階から、まだ存在していない家の窓から見える景色を考える。
そのとき確認したものが、後の設計の材料になりました。
高低差があったから床の変化が生まれ、高台だったから遠くへ開く窓が生まれた住まいです。

変形地を、建物の形に変える
「宮の沢の家」は、三方を道路と擁壁に囲まれた、多角形の変形地に建つ二世帯住宅です。
一般的な四角い住宅をそのまま置こうとすれば、限られた敷地の中に使いにくい余白が生まれます。
一方、この計画では、二世帯住宅として必要な床面積をしっかり確保する必要がありました。
そこで、土地を無理に四角いものとして扱うのではなく、敷地の形そのものを建物へ取り込むことを考えました。
すると外観には、いくつもの面が連続する特徴的な表情が生まれました。
内部にも斜めの壁が現れ、それが奥行きや視線の変化をつくります。
さらに、道路からの視線を多角形の外壁で受け止めながら、向かいにある公園の森へは大きく開く構成としています。
特徴的な建物をつくろうとして、変わった形にしたわけではありません。
土地の形と周辺環境を素直に設計へ取り込んだ結果、その家にしかない形が生まれたのです。
変形地であることを制限として消すのではなく、建築をつくる材料として使った例です。

「この土地はやめた方がいい」とお伝えすることもある
ここまで、難しい土地を生かした例を書いてきました。
けれど、土地探しをご一緒していると、反対の判断をすることもあります。
「この土地は、購入しない方がいいと思います」
とお伝えする場合です。
例えば、擁壁の状態に大きな不安がある。
傾斜や地盤の条件から、想定以上に特殊な工事が必要になりそうだ。
土地価格は安いけれど、それ以上に建築費や将来の維持費がかかりそうだ。
設計で解決できないわけではなくても、そこへ大きな費用を使うのであれば、別の土地を探した方がご家族にとって良いと判断することもあります。
建築家の仕事は、難しい土地に何が何でも建てることではありません。
そこに安全に、無理なく、長く暮らせる住まいをつくれるかを考えることだと思っています。
土地と資料だけを見ても、分からないことがある
以前、施主様と購入を検討している土地を見に行ったときのことです。
利便性もよく、現地を見ても大きな問題は感じられませんでした。
購入についても、かなり具体的な段階まで進んでいました。
そのとき、たまたま隣に住んでいる方とお話しする機会があり、その土地について尋ねてみました。
すると、
「ここは絶対やめた方がいい」
と言われました。
私たちが現地を訪れたのは休日で、周囲は静かでした。
しかし平日になると近くの工場が稼働し、地面を通してテーブルに置いたコップがずれていくほどかなりの振動が伝わってくるというのです。
これは、土地の価格や面積、用途地域、道路条件といった資料だけを見ていても、なかなか分かりません。
土地を見るということは、敷地と資料だけを見ることではありません。
周囲に何があるのか。
平日と休日で環境が変わらないか。
昼と夜ではどうか。
冬になったとき、雪はどうなるのか。自治体の除雪の状況は。
その場所で実際に暮らしている人は、何を感じているのか。
可能であれば、そんなところまで見てから判断できることが大事だと思っています。
土地を買う前だから、できることがある
土地は、一度購入してしまうと簡単には後戻りできません。
だからこそ私たちは、できれば土地を購入する前にご相談いただくことをおすすめしています。
土地を見ながら、
この高低差なら、どんな基礎が考えられるか。
この傾斜なら、空間として生かせそうか。
この擁壁はどう考えるべきか。
どちらから光を取り込めるか。
どこへ窓を開けると景色が見えるか。
雪をどこへ置くか。
車はどう出入りするか。
そして、この土地へこれだけの費用をかけたとき、建物にはどのくらいの予算を残せるのか。
そんなことを考えます。
これは、土地だけを評価する作業ではありません。
まだ存在していない建物と、そこで始まる暮らしを想像しながら、土地を見る作業です。
土地の価格だけを見れば、条件の難しい土地が魅力的に見えることがあります。
反対に、不動産としての条件だけを見れば、敬遠したくなる土地もあります。
でも、土地としての一般的な評価と、そこに住まいをつくる場所としての価値は、必ずしも同じではありません。
その違いを、建物を設計する側から見極める。
そこに、土地探しの段階から設計者が参加する意味があると考えています。
難しい土地だからこそ、できる住まいがある
平らな土地には、平らな土地の答えがあります。
傾斜地には、傾斜地の答えがあります。
変形地には、その形だからこそ生まれる答えがあります。
大切なのは、難しい条件を無理に克服して、一般的な土地と同じ状態にすることではありません。
その土地に何があるのかを丁寧に読む。
生かせるものは生かす。
危険なものはきちんと見極める。
そして、必要以上にお金をかけなければ成立しないのであれば、ときにはその土地を選ばない。
その判断も含めて設計だと思っています。
一般的には扱いにくい土地だからこそ、価格が抑えられていることがあります。
そして、その条件が無理なく設計へ取り込めるものであれば、土地にかける費用を抑えながら、その土地にしかない豊かな住まいをつくれる可能性があります。
それは、どんな難しい土地でも建てられるという意味ではありません。
その土地の持つリスクと可能性の両方を見て、
ここなら、この家族にとって良い住まいができる。
そう判断できる土地を探すことです。
土地の欠点を消すのではなく、条件を読み、それを暮らしの価値へ変えていく。
難しい土地だからこそ、できる住まいがある。
私たちは、そう考えています。
住まいを考える
「住まいを考える」は、住まいづくりにまつわる考え方や設計の工夫を、一つひとつテーマごとにまとめたシリーズです。
English Summary
Building on Sloped or Irregular Land — Possibilities Unique to Difficult Sites
Sloped sites, irregular plots and differences in ground level are often seen simply as disadvantages when choosing land for a home.
However, these conditions can sometimes become the starting point for a unique architectural solution. A slope can create changes in floor and ceiling levels, an elevated site can provide distant views, and an irregular boundary can generate a form that could not have emerged on a conventional rectangular plot.
At the same time, inexpensive land is not necessarily economical overall. Retaining walls, foundations, ground conditions, construction access, snow removal and future maintenance costs must all be considered before purchasing.
We believe the important question is not simply whether a difficult site can be built on, but whether its conditions can be transformed into meaningful value for the people who will live there.
2026.08.25